2019年の私的映画ベスト100
100位 島々の掟
99位 あの塔の真下で
98位 バンコク AM07:00
97位 許し屋 -その後悔、お任せください-
96位 肖像代理人
95位 確定申告!関ヶ原
94位 CEOが恋をした
93位 悪蟲
92位 牛丼を愛したアメリカ人
91位 Long,Long,Long. あまりにも長い人生
90位 東京妻帯者
89位 ヴィジネス・パーソン
88位 情けは男のためならず
87位 ライブビューイング ローザンヌ戯曲「ベルリン蝙蝠」2019
86位 優しさのイグアナ
85位 SETSUNA
84位 2525 〜結婚なんて絶対しないと決めていた25歳イケメンカリスマ社長が結婚を決めるまでの運命の25日〜
83位 潮の一族
82位 地球の裏のお葬式
81位 あの塔の真下で2
80位 ハマモトケンスケ 東京ひとりぼっち
79位 デベロップマグナム -慟哭-
78位 錯視
77位 リブ・イン・ミラノ
76位 三幌奈帆夢の日常
75位 Viva la viva‼︎ 世界はこんなに輝いて
74位 てぃんぐさぬばりやーち 〜心の村〜
73位 宙 SOLA
72位 劇場版トミーちゃん
71位 ミネアポリス・ポリス
70位 マッチングアプリ〜重過ぎた代償〜
69位 お師匠はん
68位 暴走‼︎アンドロイドマンモス
67位 断捨離中毒な彼女。
66位 サッド・ストーリー 〜号泣、お約束します。〜
65位 私、実家に帰りマス。
64位 しかしながらⅥ
63位 オー・マイ・リトル・エンジェル
62位 劇場版装甲騎兵団ベルナム 〜瞬きのゼルヘイナス〜
61位 キューバ講堂で
60位 滋賀/粘菌研究の四十年
59位 ちいちゃんの友達
58位 一滴の檸檬汁
57位 XOXO 〜秘密の放課後〜
56位 メトロポリタン・ブルー
55位 ファッションデザイン探偵三木香〜時計仕掛けのランウェイ〜
54位 柘榴色のパリジャン
53位 おとうちゃんは大統領 THE MOVIE
52位 アワールール‼︎ 〜ミライは僕たちが決める〜
51位 バカつまんねえバカな日々
50位 警視庁捜査四課 解決事件検証班〜THE FINAL〜
50位 ルームメイト
49位 上京男と帰京女
48位 緊急出動人間 エマージェン四郎Ⅲ
47位 ライブハウス霊
46位 サイレント・ビーチ 〜ラスト12分半の衝撃〜
45位 悪態村
44位 DAiGAKU物語
43位 Still Crazy…
42位 南より出し風
41位 タクシーの後部座席で流れる映像 THE MOVIE
40位 甲州番長吟次
39位 渡り鳥、堕ちて。
38位 少しウザいけどすごく愛してる
37位 かえってきんしゃい
36位 絶体絶命学園‼︎‼︎
35位 令状なし
34位 ホームセンター・オブ・ザ・デッド
33位 充電4%
32位 NO LiMiT
31位 Documentary of 貝塚昌弘 〜1200Days〜
30位 密葬
29位 和田と森山の場合
28位 バーゲンセールの渡り鳥
27位 三蔵法師 SANZO-HOSHI
26位 電話を食べた男
25位 インビジブル・エクスプレス -ミ・エ・ナ・イ-
24位 私の心の中の電動消しゴムVSあなたの頭の中の修正テープ
23位 ラクロス女子‼︎
22位 餅麦とベントレー
21位 ソルダム202X
20位 オネストジャイアント4 -バトル・オブ・ニューヨーク-
19位 アナハイム・ミュージック・ホール/饗宴
18位 それでも
17位 Hey,Siri!&I love you
16位 ノーベンバー 〜奇妙な日常〜
15位 見てると安心する少年
14位 馬を追え
13位 三国0258 限界大戦
12位 初孫誕生七転八倒物語
11位 コリナオル〜観ると肩こりが無くなる映画〜
10位 メルボルン
9位 牧場特急〜ザンギとカオル〜
8位 エクセル大名
7位 Mr.ノーズウォッシュ‼︎〜鼻洗いが世界を救う⁉︎〜
6位 グレート・ルネサンス -ダ・ヴァンチの遺産-
5位 メカビシソワーズVSアンデッドコーンポタージュ
4位 希望峰
3位 GIRL meets GIRL and UNCLE
2位 暁のまなざし
1位 MIND MALL
未来の悪口
【3056年 ヌーキャン悪口言葉大賞】
究極のネギアナゴ
食べられないラー油
先祖が良い加減
鬼くるぶし
欺瞞チョコまみれ
貝殻集めニスト
溶き卵飲み夫
何かのパッキン
ヘプバーン部分
ゴザ買取業社
銀行強盗傍観者
アザラシ投げ日本代表
ベラ岡バミ太郎
ジェラ野ニャリ江
いっぱいの中の3
時間概念の化身
鍋奉行を判断奉行
風邪と共に流行る人
ウザくなさ過ぎ人間
やさしさ男前靴ブカブカ野郎
UFO乗り放題
チャラつかな男
お線香吸い
極地的に良い人
テイク863出し男
アトランタ五輪陰の銅メダリスト
しゃかりき車引き
スーパーハイパー何か
ニューシングルのB面の第3候補
コモドドラゴンの仲間ドラゴン
まかないメシ横取り部外者
猛暑の原因
荻窪に都庁を作った張本人
創業者不明企業
戦隊ヒーローの青の大家
素敵な半ズボン
21時38分の塊
茶髪の端くれ
友達26人
ヒアルロン酸側の立場
怪魚の刺身
年賀状における「お元気ですか?」
【大賞】ジェラ野ニャリ江
4月14日18時58分のニュース(書き起こし)
魚住アナ「本当に楽しそうな兄弟でしたね。
えーここで速報が入ってきました。歌手でトランポリン代表の大漁舟隆之さんが公職選挙法違反及び道路交通法違反及び東京都迷惑防止条例違反及び証券取引法違反及び国際地位協定違反及び違反ごまかし違反の疑いで逮捕された模様です。鏑木署前の中谷記者と中継が繋がっています」
中谷記者「こちら東京都・下連雀の鏑木署です。
歌手でトランポリン代表の大漁舟隆之さんが公職選挙法違反及び道路交通法違反及び東京都迷惑防止条例違反及び証券取引法違反及び国際地位協定違反及び異常ないかり肩の疑いで逮捕され、先程夕方6時にこちら鏑木署に収監されました。
大漁舟さんはあらゆる悪事を昨年8月から今年11月の間に行った容疑で間の悪いことに年の瀬にぬけぬけと逮捕された模様です。
98年に歌手デビューした大漁舟さんは翌年99年にリリースした「オイラの走りはチーターだ」がスマッシュヒットを飛ばし、それを受けて同年には「ブルーインパルスなんか怖くない」で紅白歌合戦的な合戦に参加し、全身を36針縫う大怪我を負ったことでも有名です。
2006年には出演したCMで発した「これでクロスOK」が流行語大賞を受賞し人気を博しました。近年ではトランポリン界に進出したことが大きな話題になりました。
今回の逮捕を受け所属事務所のHPにて公式の謝罪文とトランポリンを飛びながら笑っている大漁舟さんの写真が公開されました。
SNS上では
「ヒット曲があっただけに残念」
「あの勇姿を忘れない」
「トランポリンさえ飛んでいれば悪い人じゃない」
「トランポリンを飛んでいない時の犯行に違いない」
「トランポリンのイメージを汚した大漁舟を許せない」
「私が全トランポリンの気持ちを代弁させてもらう。アイツは大悪党だ」
など様々な投稿が寄せられています。
警察によると「全て現行犯逮捕だった」とのことで「毎回逮捕されては逃走し合計8回逮捕されたが特別にまとめて1回の逮捕という扱いで考えている」と見解を発表しています。
また逮捕時に苦悶の表情を浮かべた大漁舟さんのブロマイド8枚セットを警視庁オンラインストアで発売予定で、売上は全国の公園美化に使用されるとのことです。
現場からは以上です」
魚住アナ「はい、こちら大変驚きのニュースなのですが、ジョロニャリニョさんどう思われましたか」
ジョロニャリニョ「そうですね、、トランポリンをとても頑張ってるなと思って、活躍を見ていましたから、今はとにかくビックリとしか言いようがありませんね、、何が彼に起こったのでしょうか」
魚住アナ「はい、ひとまずは続報を待ちつつ、8枚セットの購入を検討したいと思います。ご本人からどのようなコメントがあるかも大変注目が集まりそうです。
えーお口直しと言っては何なのですが、私が先月落語に挑戦した映像をご覧頂きながら本日はここまでです。明日もまたこの時間にお会いしましょう、さようなら。」
全国獲得予定資産管理組合
「夜分遅くに失礼します」
「はい」
「全国獲得予定資産管理組合の野菊と申します」
「はい」
心当たりのない電話。私は時間に追われて住民票を引っ越しから1年半も移さないまま今の家に住んでいる。
あらゆる口座の変更手続きや保険等の書類の提出を、忙しさを理由に怠っている。
だからこの様な電話は大概が面倒な催促がほとんどだ。
しかし今晩は心当たりのない相手からの電話だった。
「直木和弥様でお間違いないでしょうか」
「そうです」
「直木様、ただ今お時間よろしいでしょうか?」
「大丈夫です」
「ありがとうございます。直木様、突然ですが、全国獲得予定資産管理組合をご存知でしょうか」
「いや、すみません。よくわからないです」
「そうですよね。そうかと思います。我々全国獲得予定資産管理組合のことを知って頂きたくお電話差し上げました」
怖かった。何かの催促かと思っていたが新手の勧誘のようだ。認識がまるっきり入れ替わった。
「ただご安心ください。お話に少し付き合って頂ければ、我々があなたのよく知っている存在であることがわかるでしょう」
「え。なんのことでしょうか」
「お時間よろしいですか?」
「は、い。」
「ありがとうございます。
「まず我々について簡単に説明いたしますと、あなたが今後の人生で手に入れる資産を管理させて頂いている組織です。お世話になっております」
電話口から近未来的な文言が聞こえ、しばし呆然とした。それは短い間であったが、感覚としてはややそれよりも長く感じた。
いたずら電話なのだろうか。自分がもっと賢い人間であれば、早急にその判断を下し電話を切っただろう。しかし人からの電話を勢いよく切れるような度胸が自分には無かった。
「僕がお世話になっているんですか?」
「こちらこそお世話になっております」
「いやそうじゃなくて、全く心当たりが無いんですけど」
「認識としては一方的にお世話になっております。しかし直木様はご存知ないかとは思いますが、我々は事前にお互いが交わした契約の元に動いております」
「それは、あの。ちょっとあれかな」
「はい」
「よくわからないな」
「直木様が知らぬ間に契約は成立しております」
「それはあれですか?未来の私がなにがしかの契約を交わしたみたいなやつですか?」
「違います」
「じゃ、じゃあなんだというわけですか」
「厳密に言えば違いません」
「なんなんですか」
「私たちはあなたと契約したわけではなく、あなたの人生と契約をした、、、」
「人生、、、」
「人生の所有者はあなたではなく、あなたの所有者が人生であるとお考えください。あなたの所有者であるところのあなたの人生という時間が、既に私たちと契約を完了しています」
相手の言っている意味はやはりわからなかった。
ふとここで思った。さっきから話しているこの相手は男なのか、女なのか。
ここまで話した印象が、性別を意識させない。自動音声と話しているようだ。数分話してこちらの言葉に応対はしているけれども、今までの一切の流れを断ち切るように「〜の方は3、を押してください」と続けられても納得してしまいそうであった。
「用件がお済みの方は6、を押してください」と聞こえ、見えない6のボタンが震える。
とにかくどちらでもいい会話だ。
しかし今の自分は時間に追われているわけでは無い。あれだけ忙しくともその一切を無視したったいい。だからこうしてこの味のない話に付き合っている。
このような相手を脅威と思うか、水と捉えるか、その判定は自分の気持ち次第だ。
「わかりました。わからないですが」
「お時間よろしいですか?」
「はい。3分後には家を出ますが」
「話を続けてもよろしいですか?」
「はい」
「あれ、どこまで話しましたっけ…」
「僕が今後稼ぐお金をあなた方が管理している、というところまでです」
「ああ…厳密にいうとニュアンスが違うのですが、まぁニュアンスはね、別にいいですよね」
「はい」
再び時計を見た。一番眠い時間に一番眠い会話に付き合ってしまう不条理を長針に近づく秒針、短針に近づく秒針の隙間に重ねる。それは伸びては縮む。
「結局のところ僕は既に契約しているんですか」
「しています」
「覚えがないけれども」
「いや、していません」
相手の言葉は常に自問自答の最中のようだった。
契約を既にしていたか、していなかったか。正直自分の記憶に自信が無い。
この数年日中の記憶がほとんど無い。もう眠くて眠くて…。常に頭を誰かに押し付けられているみたいだ。
契約をしたとしたなら恐らく日中だろう。日が昇っているうちに、記憶が無いうちに、面倒なことは大概済まされているのだ。今この瞬間の煩わしさも晩には忘れているだろう。
私が稼ぐ予定のない事をわかって相手は話を続ける。
その話を一通り聞いてわかったことは、彼等は人々が手に入れる予定の資産をまとめて管理している。そしてそれを再分配しているようだ。
いつか金が稼げなくなった時に飴玉を配るそうだ。
その飴玉を舐めると舌が痺れるほどの甘みを感じて、脳みそがとろけちゃうんだそうだ。
猫を抱いている時みたいに。
じゃあ猫を飼えば済むじゃないですか、と私が言うと彼は、彼なのか彼女なのかわからない彼は「そういう風に猫を扱わないでくださいね」と言った。
最終的にわかったのは彼は、彼はなのか彼女なのかわからない彼はとても退屈していて、私に暇つぶしに付き合って欲しかったということだ。
Rock'n Roll!!
希望をワスレタ今の社会にモノモウス!
今こそ敗戦後のニホンの姿をオモイダセ!
1953年、TOKYO!旧い価値観の中でROCKからの魂のメッセージに応答したオトコがいた!
My Name Is Yuya Mochida!
オトコはそのメッセージを自らの体をトオシ、世界に向かってツタエタ!
巷でハヤッテイルHIP HOP!ワカモノは皆モノマネをシテイル!
ROCKに今デキルコト!HIP HOPにアケクレル若者たちにツタエタイ!
テレビをつければどこを見てもウタッテイルのはアイドルばかり!
そんなワンパターンでいいのか⁉︎テレビマンはもっとマジにやってくれよ!!
昔のテレビの連中には気概のアルヤツラがいた!
俺はよく局の廊下ですれ違うプロデューサーに酒をブッカケラレタ!
なんだよエラソウニ!俺はそうオモッタ!
エライやつらを睨みつけ、ぶっ壊しココマデヤッテキタ!
ワカモノは諦めるな!良い目をシテイル奴はマダマダいる。俺はキヅイテイル!
いつの世も時代はワカモノがツクッテイク!
大丈夫だ!俺はKOBUシタイ!
Rock'n Roll!!
餅田裕也
彼の世で我々の三泊四日
今年の社員旅行は温泉だった。
私が勤めるのは業績の悪い会社で、もはや上司らしい上司はみな指遊びをしていた。
部屋の電気は薄暗く、端の方の蛍光灯が切れていても誰も替えようとはしなかったので、見兼ねたビルの清掃員が誰も使わない階段の踊り場の蛍光灯を持ってきて付け替えるほどであった。
福利厚生は無いに等しかったが、どこかから安い弁当が運ばれてくるので、食事は困らないといえば困らなかった。
二回か三回か食べれば飽きるような味だったので率先して食べる人はあまりいなかったが、自分は食に興味がない人間だったのでそれを毎日貰っていた。食に興味がある人間と言っても、昼休みに山に入って山菜を採ったり、鹿を捕まえてくるような人は流石にいなかった。
ここは何の仕事をしているところなのだろう。私だけがピンと来ていなかった。
途方もなく巨大な雑居ビル。その隅で私を含む数えられる程度の社員が動いていた。
安い弁当が食えることぐらいが取り柄なので、金が無いことは間違いなかった。
ある日の仕事終わりに社長(?)が提案をした。
皆が帰り支度をしようかと立ち上がりかけた時だった。
「みんな、今年は社員旅行に行きませんか」
社長は白髪で決まらない横分けだった。血管か筋肉の繊維のように黒い髪が混ざっている。
この会社に社員旅行は存在しなかったので皆冗談を聞かなかったフリをするような顔をしていた。
「昨日ナショジオで地中海の天然温泉の番組を観たんだ。白鷺がつがいで湯につかってんだよ。俺も奥さんと行きたいなぁと思ったんだけど生憎奥さんはいない。だからみんな一緒に行きませんか、日頃の疲れを流しに」
ベテランの社員・荻窪が白けた口調で返した。
「疲れてないでしょ誰も」
「何を言う」
たしかに8人ほどの会社だが金は無い。全員で温泉旅行に行けば明日も無いだろう。疲れを流せば経営も流れることは皆わかっていた。
「第一そんな休み取れないでしょう」
「何を言う」
「温泉旅行より先にやることあるでしょ」
「何を言う」
「死ぬ気ですか?」
「面白いことを言う。死ぬ気では無くて、かえってより生きようとする為の慰安旅行だよ」
その場が静まり返った。
「慰安旅行…」
皆の心の中で言葉が反響した。
イアン…旅行…。
イアンとジョン…。それはイワンだ…。
自分の頭の中でだけ関係の無い言葉の連想が反響していた。
そしてギャル社員の高峰ぷよよんヒデミチョスが沈黙を破った。
「慰安旅行、私行きたいです」
皆が声の発せられた方に顔を向けた。
注目が散ったことに焦ったのか社長が大きい声で応対する。
「えっ!!!なんか言った!!??」
沈黙。再び大地に夜が訪れた。
そしてまた日が射した。
「私、慰安旅行に行って、みんなと2泊3日のイアンしたいです」
声を発したのはまたもやヒデミチョスだった。
バーーーーーン。社員全員の心中に、煙る温泉街の映像が映し出される。
誰しもの心の中にある本音がそれぞれの内側で鳴った。
「癒された〜い」
自動販売機の言い方で響く。そして。
「行こうよ。」
長老の矢嶋さんが白髪を揺らしながら呟いた。
北側の窓が自然と開く。
風が吹き込んだ。
それぞれの髪が吹き上がれる最大の位置まで吹き上がった。
私たちの心は一つになった。
明日、私たちは慰安旅行へ行く。
(つづく)
蛸焼奇譚
地下鉄は今日も混雑していた。
小和田遥子は人と人の間からどうにかこうにかホームに降り立つ時、生きている実感を得るのだった。
何故だろうか。
「産まれたっ」という感じがする。
じゃあその瞬間以外の時間は死んでいるのだろうか。
そうです。死んでいるのです。
「小和田ぁ。ザリガニは交尾をしたあと、赤色からある色に変わる。さて何色か、答えてみろ」
「先生、セクハラです。『交尾』『色』NGワードが2つで4点、あと呼び捨てで7点。合計11点の減点です」
「あっ、すみません。廊下立ちます」
「廊下に立つんですか。それなら半分の5.5点の減点とします。3秒以内に廊下に向かってください」
「はいっ」
滝田先生は背筋を伸ばし、腿を高く上げながら廊下へ走っていった。他の生徒たちから拍手が起こる。と言ってもこれは儀礼の様なもので、真の拍手が持つ様な熱は全く無く、コンサートの最後に起こるアンコールの様に決まりきったものだった。
小和田が滝田先生に最も苛立ったことはセクハラ発言でも呼び捨てでも無く、答えの定まらない問題を投げかけてきたことだった。ザリガニは交尾をしても色は変わらないのだから。
二時間目の授業が終わった。
昼食が終わり五時間目が始まった時、廊下に立っていた滝田先生が教室に戻ってきた。
「いやいやいや、まあまあまあ」
滝田先生は照れ臭そうだった。
「まぁさっきはあの、まああれだな。騒がしちゃって…ゴメンナッ」
元気係の寛子が言う。
「先生!ドンマイドンマイ!」
その他係のクラスメイト32人が一斉に笑う。
「アッハッハッハッハ!」
滝田先生が居心地の悪そうな表情でつぶやく。
「ダバダバ」
小和田遥子係の私が言う。
「先生、授業を始めましょうよ」
「ああ。そうだな」
その他係の32人が一斉に元の表情に戻る。元気係の寛子だけが「元気」をやめないで笑っていた。
「五時間目を始めるがその前に転校生が来ているから紹介する。いやぁうっかりうっかり。それじゃあ岸田くん、入っておいで!」
教室のドアが開き、男子生徒が入ってきた。
まず第一に思ったのが、背が高い。
彼は教卓に向かってスタスタと歩き、先生の右側にピタリとついた。
「それじゃあ、自己紹介しなさい」
「はい」
そこから若干沈黙があった。
寛子はどんな顔をしているだろうか。遥子はさりげなく寛子の方を向いた。
寛子はダラダラとよだれを垂れ流していた。遥子はギョッとして前に向き直った。
ちょうど転校生が声を発するところだった。
「こんにちは。はじめまして。大阪府立第三極西高等学校から転校してきました、岸田マルチワカ保です」
滝田先生が首をかしげる。
「岸田くん?そうだったっけ」
「やり直させてください」
「やり直しなさい」
「こんにちは。はじめまして。大阪府立第三極西高等学校から転校してきました、岸田保です。よろしくお願いします」
みんながあの拍手をした。
私の頭の中には「マルチワカ?」の6文字が浮かんだ。もしかしたら「マルチワカ」では無くて「マルチ若」という表記かもしれない。
岸田君の家は親がマルチ商法で稼いでいて、岸田君はお手伝いの人や会社の人に「若」と呼ばれている。それを誇りに思って「マルチ若」というミドルネームを名乗っているのかもしれない。
もしくはシンプルに犬のマルチーズを最近飼い始めたから「マルチーズを飼っている若者」略して「マルチ若」だろうか。
そしてだんだん頭の中の「マルチ若」という文字が「マルチ苔」になりかけていたが意識を目の前の光景に戻した。
しかし岸田君、男前だ。
「岸辺の岸に田んぼの田。海上保安庁の保安庁の保で岸田保言いますねん。「きしだほ」ちゃうで。しかも岸田ゆうても岸田今日子とちゃいますねん。ごめんなさい。大阪人だけどつまらない方の大阪人です。ほんとごめんなさい。がっかりしないでくださいね。しかも基本標準語で喋ります。大阪弁が全く出ません。ほんとごめんなさい。さっきの大阪弁全部嘘ですごめんなさいごめんなさい」
「よし。それじゃあ皆んな、岸田に拍手!」
また例の拍手が起こる。
「岸田は今日からこのクラスの一員だから、みんな仲良くするように」
先生は転校生が来た時に先生が言いそうなことを言った。
「それじゃあの一番奥の席。横山の隣が空いているからそこに座れ」
これもどっかで聞いたことがあったが遥子はギリセーフとした。
「えらいすいません。だなんて言わないよ。だって僕は大阪弁を忘れた不完全な大阪人。こういう時はあっ、どうもすみませんって言います」
と呟いて岸田君は照れ臭そうに机の間を通って横山の横の席に座った。
滝田先生が話し出すまでの沈黙の間に横山の
「岸田君、よろしくね。僕は横山憲一って言います」
という声が教室に小さく響いた。
どうやら手を差し出しているようだ。横山はそういう薄ら寒いやり取りを愛する男だった。
「よろしくお願いします」
確かに岸田君は淀みない標準語だった。
教室はとても静かだったので2人ががっちり握手をする音が前の方の席の私にまで届いた。
「よおし、それじゃあ五時間目、いってみよっっ!」
遥子は登校の途中で無性に学校へ行くのが気だるく感じることがある。そういう時はルートを変更して学校の近くの河原へ向かう。
手間川は都内にしては悠々とした川だった。
流れを見ているとぼんやりと時間を忘れることが出来そうになる。しかし、忘れる事はなかった。
今この瞬間教室ではみんなが授業を受けている。他の人と足並みを揃えて行動するのは得意ではなかったが、かといってそれをどうでもいい事だとも思いきれなかった。みんなの流れから離れる事は不安でもあった。
対岸に目を向ける。手間川を挟んだ向こう岸には、誰かが建てた通天閣のような何かが建っていた。
通天閣を模した建造物には縦書きで「安心と信頼の目立グループ」という文字が書かれていた。
そういえばうちの学校にも目立ちグループがいる。わけもなく廊下で大きな声を出しているやつら。何がそんなにおもしろいのか教えてほしいくらい笑っていた。
ただあの通天閣のことは当たり前になり過ぎて誰もその存在を疑問に思ってはいなかった。
なんでもかつての学生上がりの運動家たちがある種の社会変革を目指す活動の一環で建てたものらしい。
遥子の高校の多目的室にはその当時の写真が展示されていた。
ヘルメットを被った男たちが勇ましい表情で「東京にも通天閣を‼︎」と書かれた横断幕を掲げている写真だ。
これが一体何の意味を持つのか、何の為の運動なのかはよくわからなかったが、何の為に高校に通っているかわからない遥子は、自分もその当時を生きていたらそこに参加してたのかもしれないと空想した。